緑の党・東海

脱原発アクション

福島からの処理汚染水放出を止めるには、世界の連帯が鍵

尾形慶子(緑の党グリーンズジャパン共同代表)が韓国の週刊ギョンヒャンに寄稿しました。

週刊 ギョンヒャン (トレンド) 2023年8月18日  こちら

2023年7月26日在ソウル日本大使館前で、韓国緑の党と抗議。

福島からの処理汚染水の放出を止めるには、世界の連帯が鍵

福島からの処理汚染水の放出について、日本人がどう思っているのか。日本人の多くは、「国際基準に則っている」と政府が言うから大丈夫と信じている。しかし、漁民、特に福島の漁民はとても怒っている。漁業に壊滅的な影響があると予測されるからだ。

政府が日本国民および世界に対して言っているのは、(1)放出する「処理水」は国際基準に適っている、(2)太平洋に放出しても、人々の健康・環境に悪影響はない、と。さらにおかしな理屈を言う。(3)他の国が出している量よりも少ないから、悪くない。そして、日本のマスメディアは、日本政府の言い分のみを報道している。つまり、計画の安全性は科学的根拠がある。さらには、放出に反対する中国などの水産物輸入規制は、非科学的で、政治的な思惑によるものという印象を与えている。

 これに対して、私たち、緑の党グリーンズジャパンや多くの市民は、処理汚染水は安全を保障できるレベルではないこと、環境への影響は調査されていないこと、海洋放出ではなく陸上保管するべきだと強く訴える。

処理汚染水の安全基準なんてない

日本政府がいう「国際基準」とは何か。ICRP(国際放射線防護委員会)が許容している被ばく量1ミリシーベルト/年を元にして、それだけ被曝させる放射能の量に換算する。核種によって異なる係数を使って被ばく量(シーベルト)を放射能量(ベクレル)に換算する。内部被ばくの場合は、臓器ごとに係数も異なる。この換算自体が人体への影響を正確に出せるのか疑問だが。百歩譲って正確だとしよう。

IAEAは、「処理水」放出が安全だと担保したのだろうか。IAEAは報告書の中で、1)ALPS処理水の海洋放出のやり方は国際基準に整合的である。2)ALPS処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できる。と言っている。しかし、同じ報告書で「処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、IAEAが推奨するものでも支持するものでもない」と述べている。したがって、「IAEAが良いと言うから大丈夫」ではなく、日本が主体的に決めるのだ。その際、大いに疑問なのが、IAEAが言うように、本当に「人や環境に与える影響は無視できる」ほど小さいのかである。


日本大使館に韓日緑の党共同抗議書を提出する。尾形慶子日本緑党共同代表(左)とキム・チャンフィ韓国緑党代表

すべての核種を測定するという嘘

日本政府は、トリチウム以外のすべての核種の放射能量を合わせても、被ばく量1ミリシーベルト/年を上回らないようにするという。政府が言う「告示濃度比総和が1を上回らない」とはそういう意味だ。

「放出する前に、62核種をすべて測定するし、およそ発生すると思われるすべての物質を測定する。」と、緑の党グリーンズジャパンが経産省の担当者から聞いた。しかし、本当だろうか。今のところ発表されているのは、主な7~9核種の量だけだ。残りの核種は濃度比総和0.3%と仮定されている。この数字は、1000基以上あるタンクのうち、たった3基の、それも20リットルずつ取り出して測定した結果だ。放射性物質が沈殿している底の方、濃度の濃い部分を避けて測定しなかったか。疑問だ。不祥事続きの東京電力が、放出開始が数十年も大変な手間をかけてすべての核種を測定するだろうか。ましてや、世界で初めて、メルトダウンしたデブリで汚染された水を放出するのだ。未知の有毒物質が含まれるかもしれない。IAEAは果たして正当な検査を確認できるだろうか。できるとは、とても思えない。

ALPSが処理できないトリチウムは大問題

ALPS(多核種除去設備)が除去できないトリチウムは、水素の同位体であり、β線を出し半減期12年でヘリウムに変わる。日本政府は排出基準を6万ベクレル/リットルと決めている。今回、放出しようとする水は1500ベクレル/リットルにするから、基準の40分の1と威張っている。トリチウムの危険性は軽視されがちだ。東京電力はヒラメの実験を行った。1500ベクレル/リットルのトリチウム水の中を数日泳がせるとβ線を内部ひばくするが、4~5日で代謝して元に戻った。だから大丈夫という。

これは、トリチウムが体内の有機物に取り込まれなかったということだ。怖いのは有機結合型トリチウムである。水素の同位体であるトリチウムは、水素と容易に置き換わる。もし体の組織の水素と置き換わって有機結合型トリチウムになると、代謝されず十数年間臓器を被ばくさせた上でヘリウムに変わる。もし有機結合型トリチウムが遺伝子にあれば、ヘリウムに変わったとき、100%の確率で遺伝子を切る、損傷する。この現象が実際どれくらい起こるのか、よく分からないのだ。



2023年7月26日、日本大使館前で福島汚染水放流を批判。記者会見で発言する日本緑の党の尾形慶子共同代表(中)

薄めても放射能の総量は同じ、環境への影響は甚大

 ここまでの話で読者はお気づきだろう。私たちは放射性物質の濃度の話をしている。1リットルの水にどれだけの放射能があるかという話だ。しかし、考えてみよう。問題なのは、放射能の絶対量ではないか。薄めても薄めなくても同じではないか。薄めた廃棄水を大量に放出するのと、濃い廃棄水を少量放出するのと、どう違うのだ?確かに違うかもしれない、海の中の流れ方や植物性プランクトンが核物質をどう取入れか。いずれにしてもやはり、環境への影響を審査する場合、貯まってきた放射能の総量が問題ではないか。

沸騰水型原発の福島第一から、トリチウムを年間22兆ベクレル放出することをIAEAが許している。東電は限度いっぱいのトリチウムを放出する計算をした。22兆ベクレルを365日で割ると、毎日603億ベクレルのトリチウムを放出することになる。これを海水で薄めて濃度1500ベクレル/リットルにすると、約4000万リットルになる。実に25メートルプールの110杯分だ。たとえ薄めたと言っても、毎日これほど大量の処理汚染水が放出されるのだ。東電は、トリチウムだけでも約860兆ベクレルあると試算しているから、大量放出は約40年続くと予測される。


2023年7月17日、海の日行動に参加した日本の緑の党とその仲間たち

トリチウム以外の放射性物質を含めた総量(濃度ではなく)を東電は公表していない。理由は、タンク内の濃度は均一ではないし、1000基以上のタンクの水を調べるのは大変だし、どうせ推計しかできないからと、経産省の担当者から聞いた。放射能の総量を調べないという。しかし、放射能の総量が分からなくて、どうやって環境への影響を調査できるのだ。いや、できない。

政府が、環境影響評価を行っているというのは嘘だということになる。広い海の中で、排出された放射性物質がどのような動きをするかもよく分かっていない。どのように生物濃縮が進むかも明らかではない。もっとも大切なこと、人々の健康と海の環境への影響が分からないのだ。それなのに、処理汚染水を放出することは重大な罪ではないのか。

太平洋の汚染を禁じる、国際条約を尊重しよう

太平洋諸島フォーラム(PIF)が廃棄処理水の放出に強い懸念を示している。1950年代・1960年代に原水爆実験による甚大な被害を経験した国々の懸念は当然だ。海の汚染を禁じる国際条約として、ラロトンガ条約とロンドン条約がある。南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)は、南太平洋非核地帯において、放射性廃棄物その他の放射性物質の海洋への投棄を援助・奨励などをしないことを法的義務として課している。岸田首相はPIFに、すべての当事者が合意するまで「処理水」を放出しないと述べた。しかし、福島沖は南太平洋ではないと押し切るのだろうか。


2023年7月17日、海の日の行動に参加した日本の緑の党の尾形慶子共同代表(右)

もう1つのロンドン条約は、廃棄物を船舶・飛行機などから海へ投棄することを禁止する。今回の海洋放出は陸上からの投棄だから、条約の対象ではないというのが日本政府の立場である。船で外洋に投棄するのではなく、陸上物から放出するからとのこと。陸上物といっても、1キロメートルの海底トンネルの先から放出するのは、なるべく「処理水」を外洋に拡散する目的ではないのか。それでも、ロンドン条約の対象外だから、条約違反にはならないという。どちらにしても、条約に込められた思いを軽視していると思われてもしかたない。日本政府は、何世代にもわたる未来のリスク、漁業、環境、生物多様性、健康の問題と向き合うべきだ。

一方で、すでに原発から投棄されている大量の汚染水を世界は許しているじゃないかという意見もある。そのとおりだ。原発の汚染物質が世界中の海をすでに汚している。大問題である。さらに大きな問題は、福島からの処理汚染水の放出が、「処理に困ったら廃棄物を海に棄てればいい」という前例になることだ。そういう意味でも、放出を許してはならない。


2023年7月13日、経済産業省と面談中の日本の緑の党の尾形慶子共同代表(中央)

陸上に保管するスペースも方法もあるのに

政府は、処理水を陸上に保管するスペースはない、海へ放流するしかないと人々に信じさせている。それも嘘だ。スペースはある。デブリ(溶融核燃料)880トンを取り出した暁に、保管するための広いスペースが確保してあるのだ。では、デブリはいつ取り出すのか。ロボットアームで取り出す研究をしているが、未だ1グラムも取り出せていない。デブリの取り出しをあきらめて、そのスペースに処理水を保管する巨大タンクを並べてはどうか。

石油備蓄に使われている大型タンクは、堅牢で雨水混入対策が施され、すでに世界各地で利用されている実績がある。現在1000基以上の1万トン・タンクを、100万トン・タンクならたった14基に替えられる。また、セメントを混ぜてモルタル固化する方法もある。水漏れのリスクが減り、すでにアメリカの核施設で適用されている。

政府は、これら陸上保管の方法をろくに検討せず、海洋放出しかないと決めた。それが漁業者たちに甚大なダメージを与えると知りながら。そして、沖合1キロメートルの地点から放出するために、約430億円をかけて海底トンネルを建設したのだ。これは鹿島建設など大手ゼネコンの事業となった。

福島の漁民は怒っている

2015年、政府・東電と福島県漁連・全漁連の間で約束文書が交わされた。「関係者の理解なしには如何なる処分も行わない」と約束したのだ。福島県漁連はじめ漁業者は反対を堅持している。約束を破るようなことがあってはならない。政府は早々と「風評対策」として2021年に300億円、2022年に500億円を計上した。しかし、これに多くの福島県民が不信感を抱いている。廃炉を優先して復興を犠牲にするものだからだ。政府は、福島復興と原発廃炉を両方行うと宣言したのに、実際は、復興を妨げる処理水放出を優先しようとしている。福島県民は強く怒っている。

福島原発事故から12年、少しずつでも汚染がなくなり、故郷が復興することを県民は切に願っている。漁民は、壊滅的な被害を受け、水揚げ量も売上も激減したが、漁業の火を消さないように、放射能検査を徹底するなど懸命に頑張ってきた。2015年に突如、政府が汚染水を放流させたことに対して、漁民は強く抗議した。その結果、政府は「関係者の理解なしには如何なる処分も行わない」と約束したのだ。今、漁民はもちろん処理水放出に合意していない。政府が放出を強行すれば重大な約束違反である。漁民たちは、政府の真摯な対応を望んでいる。

福島県内の農業共同組合も消費者組合も抗議声明を出した。福島県の市町村の議会も、59市町村のうち、7割が放出に反対か慎重対応を求める決議をした。福島県民だけではない。今年7月26日には、全国知事会が新たに「国内外の理解が十分に得られている状況にあるとは言えず、新たな風評を生じさせる懸念がある」として、海洋放出ありきの姿勢に批判的な政府への提言を議決した。


2023年7月26日、福島核汚染水投機対応懇談会でポーズをとった韓日緑の党及び韓国脱核環境団体

マスメディアは、政府・東電の発表をそのまま流すばかり

このように「処理水」放出反対する強い声がある一方、これは単なる感情論であって、「風評被害」を煽り、差別を助長するという言説が、残念ながら日本に広がっている。マスメディアも批判にさらされることにしり込みし、政府・東電の発表をそのまま流すばかりだ。海外の反応については、韓国の国民の放出反対の声や、中国の日本の海産物の輸入規制については冷ややかだ。非科学的で感情的な対応だといわんばかりの報道である。このような報道の姿勢は、日本国民の考え方にさらに大きな影響を及ぼしている。

日本国民は本当に魚が安全だと思っているのか?

多くの日本人の気持ちは、政府発表のとおり、あるいは政府発表しか報道しないマスメディアの言うとおりに信じている。つまり、IAEAが国際基準に則していると言ったから大丈夫、大海に放流される処理水の放射能は微々たるもの、増え続ける汚染水をいつまでも福島に貯蔵する訳にはいかないと思っている。

もちろん処理水とはいえ、放射性物質を含む水を太平洋に流すのは、良くないに決まっている。とはいえ、声をあげて反対するかというと、ほとんどの日本人はそこまでしない。「魚を食べても問題ないといいな」と願っていたところに、ちょうどIAEAが「影響は微々たるものだ」と言ってくれた。政府も問題ないと言っている。聞きたいことを言ってくれたから、それを信じることにしたということか。問題意識の低さが自国民ながら情けない。

海を汚さないために、日本と世界は連帯しよう!

私は思う。私たち日本のアクティビストがすべきことは、日本国民に知らせることだ。海洋放出が科学的に正しいとまったく言えないと。政府は海洋放出しかないと言うが、そうではない、陸上保管できるのである。海を汚さない国際条約の趣旨を尊重するべきだ。太平洋を放射性物質で汚してはいけない。海洋放出を断念させるために、福島漁民も日本国民も世界の人々と連帯しよう。すべての海を、地球の環境を守ろう!