- 投稿日:2020年05月02日
- カテゴリ:声を上げよう
緑の党・東海が賛同団体になっている気候ネットワークが、石炭開発を推進する「JOGMEC法改正案」などに反対するプレスリリースを発表しました。
コロナ禍のどさくさに、政府が、時代錯誤なエネルギー関連の法改正を3つまとめて、今国会で通してしまおうとしています。私たちは強く反対しなければなりません。
気候ネットワークによると、
(1)石炭開発を拡大する「JOGMEC法改正案」は世界の潮流に逆行
世界の脱炭素ムーブメントのおかげで化石燃料が割高になってきています。特に石炭火力は、私たちの運動が実ってダイベストメント(投資の引き上げ)が進んでいますが、この業界を国家予算で救済しようとしているのが「JOGMEC法改正案」です。
(2) 再エネつぶしになりかねない「FIP」制度への議論は慎重にすべき
再エネを有利にして、再エネを普及させようとするのが「FIT」制度です。それなのに、儲かりそうな電源には補助する「再エネ特措法改正案」は、再エネのコストが高止まりしている現状では、再エネつぶしになりかねません。
(3)託送料金見直しと発電側基本料金は公平な制度にすべき
「電気事業法改正案」は、再エネ業者を苦しめている高額な託送料金の問題を解決しません。その上、石炭に著しく有利、再エネに不利な基本料金増も検討されています。これらのCO2排出削減に逆行する改正案に反対しましょう!
「エネルギー供給強靭化法案」に対しての提言
~3法案の1本化を止め、石炭開発推進の「JOGMEC法改正案」は廃案に~
2020年4月30日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵
2020年2月25日、「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(通称:エネルギー供給強靭化法案)1」が閣議決定された。この法改正は、電気事業法、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)の3つの法律の部分改正をまとめて行うもので、第201回通常国会で審議される予定である。今回の法案の目的は、「自然災害の頻発、中東等の国際エネルギー情勢の緊迫化、再生可能エネルギーの拡大等、電気供給を巡る環境変化を踏まえ、災害時の迅速な復旧や送配電網への円滑な投資、再エネの導入拡大等のための措置を通じて持続可能な電気の供給体制を確保する」とされているが、その実態は、再エネを抜本的に拡大するものではなく、「パリ協定」の下、国際社会全体で脱化石燃料に向かうべきときに、経済産業省所管の資源・エネルギー開発に参入するための支援サービスを提供する独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の権限を強め、石炭依存を一層、推進しようとするものである。
気候危機に対する対応、さらには東日本大震災の原発事故や北海道胆振東部地震時の石炭火力停止によるブラックアウトなど、大規模集中型電源がもたらした悲惨な状況を今後乗り越えるためには、再生可能エネルギーを主力電源化するというエネルギー基本計画の方向性に徹底し、そのための諸制度を改善していくべきである。しかし、これまで経済産業省がリードしてきた施策は、再生可能エネルギーの普及を阻害し、化石燃料への依存を高めるものにほかならなかった。今回、JOGMEC法として束ねられた3つの法案は、これらを一層、推進しようとするもので、今後の日本のエネルギー・気候変動政策に重大な影響をもつ重要法案である。
しかも、これらの法案は、それぞれ立法趣旨の異なる3つの法案を束ねたものであって、本来、一つひとつ、慎重に審議すべき法案である。にもかかわらず、これらを一括法案化して、コロナ禍の緊急対応が求められているなか、十分な審議時間をとらずに成立させることがあってはならない。以下にその問題を指摘するとともに、国会での慎重な審議を求める。
(1)石炭開発を拡大する「JOGMEC法改正案」は世界の潮流に逆行
JOGMECは、石油公団と金属鉱業事業団を前身として、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法に基づき2004年に設立された。石油の備蓄の確保等を目的として過去3度2にわたる改正で国際資源獲得のための機能が強化されてきた。今回の法改正も「有事に民間企業による発電用燃料の調達が困難な場合、電気事業法に基づく経産大臣の要請の下、JOGMECによる調達を可能に」すると説明されており、日本のエネルギー供給における化石燃料依存を維持しようとするものである。
同省は、2020年3月に資源・燃料政策を取り巻く環境の大きな変化を踏まえて新たな戦略が必要として「新国際資源戦略3」を策定し、その中の「気候変動問題に配慮した油ガス田等の開発の促進」において、「上流開発に際して実施する脱炭素化対策事業は開発事業の経済性を低下させる傾向があるため、環境対応による経済性の低下を軽減し、企業の取組を進めるインセンティブ措置が必要」として、その経済性の確保を支援しようとしている。これは、同省が設置した総合資源エネルギー調査会 資源燃料分科会が2020年2月に経済産業大臣に提出した「新・国際資源戦略策定に向けた提言4」における「石炭の安定供給への対応」においても、「近年は、ダイベストメント等の影響を受け、一般炭の上流資産を手放す企業の増加とそれに伴う市場の寡占化が徐々に進行している」との認識を前提とするものである。
本来、日本政府は、脱化石をめざす「パリ協定」の下で「ダイベストメント」を後押しすべき立場にあるというべきである。しかるに、このような経済産業省の化石燃料重視の姿勢は、脱炭素を目指すパリ協定に逆行するものと言わざるを得ない。
さらに、この法案のなかの電気事業法等の一部改正法律案第33条3は、「経済産業大臣は、電気に安定供給の確保に支障が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、発電の用に供する燃料(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれから製造される製品であって経済産業省令で定めるものに限る。)の調達が特に必要であり、かつ、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構以外の者による調達を困難とする特別の事情があると認められるときは、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構に対し、当該燃料の調達を要請することができる」とするものである。即ち、経済産業大臣は、「電力の安定供給に支障がある」と認めれば、「有事」でなくても、総合商社に代わってJOGMECに直接、化石燃料の調達を要請できるというものであるが、国家予算で石炭開発事業を推進すべきではないことはいうまでもない。
しかるに、JOGMECは既に、新国際資源戦略を受けて、国会での法案審議を前に体制を整え、今回の法改正の内容である債務保証の手続きなどをWEBサイトで公開しており5、国会軽視も著しい。
(2) 再エネつぶしになりかねない「FIP」制度への議論は慎重にすべき
今回の再エネ特措法改正案では、再生可能エネルギーの固定価格買取(FIT)の対象となっている電源のうち「競争力のある電源への成長が見込まれているもの」は、FIT制度から市場価格と連動した一定額の補助額(プレミアム)をつけて交付する新しいFIP制度へと移行することとされている。この法案では、資源エネルギー庁が補助額(プレミアム)を定めることとしており、その金額設定は制度の肝となる。現状ではなお、再エネの建設コストが高止まりしており、金額を下げて、再エネ普及を妨げることのないよう慎重な設定が求められる。
(3)託送料金見直しと発電側基本料金は公平な制度にすべき
今回の電気事業法改正案には、基幹系統と呼ばれる長距離送電網の整備について、発電者の要望に応じて送配電網の新設・増強を検討する手法(プル型)から、電力広域的運営推進機関が新設・増強を検討する手法(プッシュ型)に変え、そのコストは、大手電力会社で均等に負担することが含まれている。
ここで問題になるのは再生可能エネルギーで発電された電力の託送料金である。これまで、大手電力会社が新たに再生可能エネルギーを新設しようする事業者に、基幹系統から枝分かれした「ローカル系統」と、変電所から発電所までの「電源線」の送配電網費用として多額の費用負担を求め、そのため再エネ事業が進まず、その普及を阻害してきた。今回の法改正は基幹系統の整備についてだけであって、再エネ事業者に生じている問題を解消するものではない。
一方、経済産業大臣直属の組織である電力・ガス取引監視等委員会6では別途、発電事業者側の負担をさらに増すことになる発電側基本料金の検討が進められている。発電事業者へのこの課金が導入されると、毎月、発電所の設備容量(kW)単位で150円程度を徴収するというものである。このように設備容量(kW)単位による課金制度となれば、発電量(kWh)単位では、稼働率が低い太陽光発電等の再生可能エネルギーは、稼働率が高い火力発電などに比べて著しく割高になり、石炭火力発電に極めて有利な制度になる。即ち、再エネの普及を著しく阻害し、再エネを主力電源化の実現をさらに遠ざけるものであって、容認できないものである。
参考
1.強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案
2.2012年JOGMECの機能強化:災害時の石油・石油ガス供給計画への援助の追加
2013年JOGMECの業務追加:石炭経過業務の追加、石炭資産管理部、九州支部の設置
2016年JOGMEC の機能強化:石油天然ガス開発上流企業による企業買収等への支援を拡大
3.新国際資源戦略