緑の党・東海

政治塾

学習会:脱成長とベーシックインカム

 

10月28日、脱成長とベーシックインカムをテーマに、緑の党の論客・白川真澄さんを迎えて学習会を開きました。

 

【質問を募りました】

参加者は下記の資料を読んで、学習会に臨みました。

いまなぜベーシックインカムか前半

いまなぜベーシックインカム後半

質問のある人はあらかじめ講師に出しておいたので、講師は1つ1つ丁寧に答えてくれました。

講義は下のスライドプレゼンテーションに沿って行われました。

脱成長とベーシック・インカム20181028

下記の項目をご覧ください。

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Ⅰ 成長なき時代へ

1 急激に進む人口減少――日本の人口の推移

深刻なのは生産年齢人口の急減

労働力人口の減少は避けられない

*生産年齢人口の減少は、2030年までに853万人、年平均1.1%

*労働力人口の減少をカバーする対策

(1)女性と高齢者の就業率の向上:就労希望者250万のうち100万人が就労

(2)外国人労働者の受け入れ拡大:毎年10万人 → 150万人が就労

*対策をとっても、30年までに527~537万人、年平均0.5%の減少。1%の低成長は必然的

*労働生産性の上昇率が1.5%になり、労働力人口の減少。0.5%を補っても1%成長

*労働時間の短縮が就業者数増加と生産性上昇を相殺

*人口減少が需要(個人消費)を縮小

*欲求と消費の質の変化:シェアリング経済の拡大、若年層の消費性向の低下。脱成長を選び取る必要性

*異常気象をもたらしている地球温暖化

*早ければ30年にも世界の平均気温が産業革命前より1.5度上昇(IPCC)

*途上国に一定の経済成長を許容するとすれば、先進国は産業や生活様式の脱成長への転換が求められる。脱成長社会の豊かさ

*労働時間が大幅に短縮(年1300時間)←現在(17年)1724時間、正社員2021時間

*より少なく働き、より豊かに生きる:働き方や生き方の多様な選択肢を手に入れ自由な時間が増える

*労働時間の減少に伴って賃金は減少。労働時間の短縮で生産性は上昇するが、賃金減少分はカバーしきれない

*現金支出に頼らない自給や互酬の増大と同時に、ベーシック・インカムの導入が必要に。

Ⅱ ベーシック・インカムへの期待の高まり

1 世界各地でBI導入の実験

*スイスの国民投票(16年6月)

*フィンランドの実証実験(17年1月から2年間)

*スコットランドのファイアでの実験(20年から)

*オランダのユトレヒト市などでの実験(16年1月から)

2 日本では貧困の深刻化がきっかけ

*21世紀に入り、格差・貧困問題が浮上:相対的貧困率が16.0%(09年)に。生活保護受給者も14年間で倍増し176万人へ(09年)

*企業による生活保障システムの瓦解/非正規雇用の急増

*リーマン・ショックの直撃:「派遣切り」に対して「年越し派遣村」登場

3 貧困問題は解決されていない

*非正規雇用は2千万人、全体の4割:年収200万円以下の労働者は1132万人(16年)

*相対的貧困率はやや低下したが15.6%(15年)。シングルマザーや子どもに貧困が集中。

*貯蓄ゼロの世帯は31.2%、単身世帯では46.4%(17年)対極では年間所得1億円超の人が5年間で6割増えて2万500人に(16年)

4 AIが労働者から仕事を奪う可能性

*日本や米国では、20年内に半分の仕事がAIに代替されるという予測(オズボーン)

*単純な作業だけではなく高度な知識や経験が必要な仕事も/弁護士・会計士、医師、バスやトラックの運転士

*職を構成する作業の半分が自動化されても、職自体は残るという反論。

*創造性やコミュニケーション力が必要な仕事は、AIに代替されない

5 人間の労働が不要になる社会という予測(井上智洋)

*「汎用AI」(人間のようにあらゆる作業をこなせるAI)が登場→ 人間に代わってAIやロボットだけが生産を担う経済へ

*大量の失業が発生し、日本では2045年には人口の1割(1千万人)しか真っ当な労働ができない

*AIのコストよりも安い賃金で働く場合には、雇用される

*汎用AIの利用で経済成長が加速されるが、労働による所得が激減して需要は大きく縮小(井上『人口知能と経済の未来』)

6 AI活用による雇用の減少(経産省の試算)

*AI活用の「第4次産業革命」によって、30年までに735万(0・8%成長の場合)~161万人(2.0%成長)の雇用が失われる

*2%成長の場合でも、製造、バックオフィス、営業販売、サービスなどの部門で600万人の雇用喪失。

*職業訓練による転職、新しい高付加価値サービスの創出、IT分野の拡大で434万人の雇用創出。

*それでも、161万人の雇用喪失

7 AIの普及は雇用の二極化と所得格差拡大を招く

*AIの開発・操作を担う人びとは高い報酬を得るが、雇用機会は限定

*多くの労働者は、AI導入のコストよりも安く働くのであれば雇用される

*雇用の二極化と所得格差拡大は、ITが経済を牽引した米国で先行して出現

*多くの人びとは、働くことで生活できるだけの収入を得られない→ 最低限の所得を保障するBIの必要性が提唱(フェイスブックのCEO)

Ⅲ BIとは何か

1 BIの特徴

*すべての個人に対して最低限の生活ができるだけの所得を無条件に保障する仕組み

*無条件/働いているか否か、働く意思があるかないか、収入や資産があるかないかに関わりなく給付される

*日本で暮らす全員に、例えば月8万円を一律に給付

2 労働の否定? 労働の解放へ

3 労働について選択する自由

*資本主義の下では、人間は“働くか働かないか”の選択の自由を奪われている

*BIは、失業の恐怖から解放され、ひどい低賃金や長時間残業やパワハラの職場(ブラック企業)で働くことを拒否できる

*BIは、多様な生き方を選択する自由の物質的基礎を保障

4 普遍主義と選別主義

5 選別主義のメリット

6 選別主義の欠陥(生活保護の場合)

*「偏見」(スティグマ)の発生

*所得や資産の厳格な審査(ミーンズテスト)→ エアコンやクルマの所有は? 多額の行政費用

*所得制限があるため働くことへのインセンティブが低下

*恩恵を受けない中間層が、貧困層を支援する税負担に

反発→ 社会の分断(井手英策ほか『分断社会を終わらせる』)

Ⅳ BIへの批判と反論

1 働く意欲を失わせる?

*新自由主義者は、働く意欲を失わせないためにBI支給額を月4万円に抑制

*左翼は、生存権保障の観点から最低限の生活ができる水準(生活保護の生活費)を提唱

*もっと良い生活を楽しみたいから働きたいと思う人は多いはず:平均給与は男女平均で月35万円、女性でも23.3万円

2 BIは労働時間を短縮する

*8万円のBIが給付されれば、労働時間を減らす人は多くなる

*週40時間働いて月30万円稼いでいた人は、週30時間働くだけで22万円プラスBI8万円=30万円を得られる→ より少なく働き、より豊かに生きる社会へ

3 財源はあるのか?

*月8万円を全員に給付すると、人口1億2千万人として年115兆円

*国の予算(一般会計)は、約100兆円

*社会保障給付費は 約120兆円(社会保険料で70兆円、税金・借金47兆円)

*政府の債務残高は1000兆円

4 こうすれば財源を確保できる(1)

*個人の所得総額は約275兆円/民間の給与所得208兆円、自営業者など申告所得40兆円、公務員の給与27兆円(16年度)

*現在は多くの所得控除があり、所得税率も10%以下が8割、金融所得課税が20%とひじょうに低い

→ 所得税収は17.7兆円、所得総額の6.4%(給与収入700万円の夫婦子2人の世帯では6.6%、イギリスは20.7%、ドイツは16.1%)

*所得控除をなくす代わりに、個人所得の総額に40%の比例課税を (小沢修司)

5 こうすれば財源を確保できる(2)

*社会保険料控除を除いて所得控除をなくし、所得総額275兆円に40%の税を課す → 110兆円

*社会保険料控除を除いても100兆円は確保できる

*所得税率は非常に高くなるが、可処分所得は変わらない

・夫婦と子2人世帯:現行制度610.5万円 BI導入762万円

・シングル:現行制度263.8万円 BI導入256万円

5 AIにも課税

*人口減少に伴う労働力人口の減少、またAI導入による雇用機会の減少と低賃金労働者の増大

→ 労働による個人所得は大きく減少、したがって所得税収も大幅減少

*低成長あるいは脱成長社会では、税収(勤労所得税、消費税)の伸びは期待できない

*AIを所有・使用して巨額の利益を得る人に課税するという提案(ビル・ゲイツ)

6 BIよりも社会サービスの拡充を優先すべき?

*BI(月8万円)だけでは人間らしい生活は営めない。医療・介護・子育て・教育・住宅など誰もが必要とする社会サービスが無料(あるいは低料金)で提供される必要。

*日本で多くの現金収入が必要とされるのは、子どもの教育費と住宅費(ローン支払い)に多額の支出が強いられるから← 大学教育と就学前教育の自己負担率が高い。持ち家政策のため公営住宅の提供や家賃補助が不足。

*高齢化の進展にもかかわらず、公的な介護サービスが不足:25年には38万人の介護人材不足の惧れ

7 BIも社会サービスの拡充も

*新自由主義者は、BIだけを給付して社会サービスは削ると主張/医療・介護・教育などは市場からお金で買わせる

*BIも社会サービスの拡充も→ BIの財源調達の議論だけでは狭すぎる

*社会保障給付費は高齢化に伴って膨張

2018年度   2025年度   2040年度

総額      121       140       190

医療・介護    50            63           94     (兆円)

9 成長なき時代の社会保障と税のあり方

*人口減少・高齢化が進み低成長が避けられない時代に、BIも社会サービスの拡充も必要。

*社会保険料の負担の引き上げはすべきでない→ 公正な税負担による税収増しかない

*所得税、法人税、相続税、環境税の税率引き上げ、グローバル・タクスの強化プラス消費税率の引き上げが必要

*成長なき時代には税収増だけに頼れず、地域における無償の助け合いが重要に

Ⅴ BI導入のために何が必要か

1 政治的合意の形成が必要

*経済成長(が続く)神話を前提にした勤労イデオロギーの根強さ/「働かざる者、食うべからず」の勤労イデオロギー、働けば食えるのだから働けばよい、働かない人間はクズ云々。

*誰もが背負うリスクに対して「自己責任」では対処できず、「連帯・分かち合い」で

*お金持ちにも現金給付に対する疑問→ 普遍主義についての合意形成

*外国籍住民にもBI給付に対する疑問→ 多民族共生社会という合意形成

2 部分的導入を試みる

*所得制限なしの子ども手当の復活、所得制限なしの大学教育の無償化

*「若者基金」あるいは「若者基礎年金」の創設

*税による「最低保障年金」制度の導入/基礎年金への一律の税投入をやめ、低年金・無年金の人の給付を税を投入して8万円に引き上げる

3 給付付き税額控除の導入

*課税最低限を定め、それを下回る人には非課税ではなく、マイナスの所得税を課す、つまり税を還付する

*低所得層を対象にした貧困・格差是正策(ターゲッティズム)だが、生活保護の欠陥を是正(ミーンズテストの廃止、就労へのインセンティブ)

*全員の所得の正確な把握が必要→ マイナンバー制度ではない税・社会保障番号制度の導入