- 投稿日:2025年05月05日
- カテゴリ:声を上げよう
安保法制違憲訴訟 控訴審の第1回口頭弁論期日(5/15)にて、緑の党・東海共同代表の尾形慶子が原告陳述を行いました。

戦争からも地震・気候災害からも、未来世代を守るために
<なぜ原告になったか>
1 私は、1957年に三重県四日市市に生まれました。故郷の空気は汚染されていました。幸い私は「四日市ぜんそく」を発症しませんでしたが、友人のなかには喘息患者もいました。子ども心に環境が命に与える影響をつよく意識しました。
2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の事故の後、原発をなくす運動に残りの人生をかけようと思いました。さらに、近年の気候変動の深刻化が、地球の未来を脅かしていることから、地球温暖化対策など環境運動に打ち込むようになりました。
そして2015年に安保法制が成立したとき、日本の未来の世代の幸福を危うくすると思い、この裁判の原告になりました。なぜなら、私には3人孫がおり、彼らに幸せな人生を送らせることが、私の人生の目標だからです。
<不戦の誓い憲法が国を守る>
2 私は、90歳を超える両親から、戦時中の話を聞いています。父からは、学徒動員されほとんど学校で勉強することはできず、軍需工場で働いたこと、空襲で多くの学徒が犠牲になったことを聞きました。母からは、戦中・戦後、食べ物がなくてお腹を空かせたこと、母の妹(私のおば)は小さかったので消化の悪い豆などでよくお腹を壊したことも聞きました。
私は、両親の世代を、本当に可哀想だと思います。優しい両親の苦しかった話を聞くと、心が張り裂けそうになります。
3 私が生まれ育った時代には、戦争が無くて、本当に良かったと思います。それは、平和憲法のおかげだということを学びました。悲惨な戦争を二度と起こしてはならないという深い反省のもとに、日本国憲法前文・9条の中で、平和主義・戦争放棄を謳ったと知りました。このおかげで、日本が、他国から攻められ、戦争に巻き込まれることを防いでいるのです。
4 このような戦争放棄の理念を無きものにする法律が成立したとき、私は、背筋が凍るような恐怖を感じました。自衛隊の「専守防衛」の原則、すなわち他国から攻撃されたら、日本を守る行為を行うことは、まだ理解できました。しかし、日本が攻撃されていないのに、他国の紛争に自衛隊が出向いて関わるとなると話は別です。
5 1992年PKO協力法の成立以来、2001年テロ対策特別措置法に基づく給油活動、2003年のイラク人道復興支援特措法に基づく派遣、2009年からのソマリア沖での海賊対処活動、災害時の国際緊急援助活動など、自衛隊の海外派遣が定着していきました。その中で、2018年南スーダン派遣部隊の日報隠蔽問題がおこりました。実は自衛隊が戦闘地域で活動していることが明らかになったのです。
一方、国内では、2013年国家安全保障局の設置、2014年特定秘密保護法施行と、日本が戦争できる国になる準備が進み、私は、じわじわと恐怖が背筋を走るのを感じました。
6 そして、極めつけは2015年に成立した一連の安保法制です。集団的自衛権の行使は、もはや日本国を守るためではありません。同盟国を助けるという名目で、日本と関係ない国へ行って戦争行為を行うことだと理解しました。歴史上、多くの戦争が、このような軍事同盟を理由に始まりました。
<自然災害への対策が必要>
7 戦後、世界の経済成長は、石油・石炭・天然ガスなど化石燃料の大量消費により大気圏に温室効果ガスを増やし、地球温暖化が始まりました。世界ではスーパー台風・大旱魃・大規模な山火事など悪影響が顕著になり、近い将来に地球は後戻りできないほどのさらなる被害を地球の生態系にもたらすことが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、1988年設立)に集う科学者らによって警告されています。世界は連帯してこの危機に取り組まなければならず、2015年、COP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)にて、産業革命以降の世界平均気温の上昇を1.5℃(当初目標は2℃、2018年に修正)に抑えるべく、温室効果ガス削減を世界的な取り決めました。
8 日本も世界第5位の温室効果ガス排出国として、責任をもって気候変動の問題に取り組まなければなりません。日本でも、夏の高温は毎年のように最高記録を塗り替えているだけでなく、豪雨災害が顕著です。昨年(2024年)1月に大地震に見舞われた能登半島は、9月に豪雨に襲われ、未だ復興していません。2011年に東日本大震災の甚大な被害を受けた岩手県大船渡は、今年(2025年)2月に大規模な山火事に襲われました。大地震と気候災害のダブルパンチの恐怖は、南海トラフ地震・東海地震が今後30年以内に80%以上の確率で予想されている現在、首都圏を含む広範囲で危惧されています。
9 そこにさらに戦争が重なったらどうなるでしょう。1944年12月東南海地震、翌月の1945年1月三河地震は、戦争末期に学校や軍需工場を含み甚大な被害をもたらしたにもかかわらず、戦意喪失を恐れた軍は、報道を厳しく制限し復興にほとんど手をつけませんでした。
<必要なのはエネルギーと食料安全保障、福祉>
10 未来世代の幸せのために必要なのは、軍備拡張ではありません。日本の平和と安全のために、エネルギーと食料安全保障が必要であり、災害に見舞われても助け合うことのできる手厚い福祉体制です。
11 エネルギー源を化石燃料に頼り続けることは間違いであるだけでなく、輸入したウランを原料とする原子力発電も一刻も早く廃止しなければなりません。戦時下では、原子力発電所は簡単な攻撃標的になります。これは、ウクライナに侵攻したロシアが、チェルノブイリとザポリージャ原発を攻撃・占拠したことを見ても明らかです。福井県・新潟県を始め日本海側に原発が林立してくる状況は、極めて危険と言わざるを得ません。自然にエネルギー源を求める再生可能エネルギーこそ、平時も非常時も人々の生活を支えることができます。
12 日本の食料自給率は、カロリーベースで4割を切っています。すなわち、もし世界戦争などが起こり、食料を輸入できなくなれば、日本人の7割近くは飢えるということです。高齢化が酷い農業人口を回復させるために、手厚い農業保護政策に日本は取り組まなければなりません。食料供給困難事態対策法が想定するような、異常気象・紛争などの影響で食料が不足する状況下に政府が生産・出荷・販売の調整などを強制的に要請することが起こらないようにしなければなりません。
13 このような国難が迫っている時、戦時中および戦後のような悲惨な状況をまた起こしてしまうのではないかと不安になります。
医療・介護・保育・教育など福祉分野は国政でも地方でも削られる傾向がありますが、非常時だけでなく、平時でも手厚い福祉制度を作っておかないといけないと思います。それを私たちはコロナ禍に学びました。また、長引く不況はコロナ禍や物価高騰などで人々の生活は一層苦しくなっています。結婚しない、子どもを持たない若い人たちが増えている主な理由は、生活が苦しい、将来に希望が持てないからです。
<軍備拡張ではなく、平和を希求する心と外交によって>
14 社会福祉の分野は国政でも地方でも削られる傾向にあり、気候変動対策や防災は遅々として進んでいない一方、国の防衛費の2025年度予算は過去最大の8.7兆円となりました。2015年に成立した安保法制は、集団的自衛権の行使を認めました。日本は敵基地攻撃能力を強化し、アメリカと一体となって先制攻撃する、つまり日本がアメリカの前線部隊にさせられる危険があります。日本は加害者になる可能性があります。少なくとも日本の周辺国はそのように不安になるでしょう。
15 アフガニスタンでの長く支援活動を行っていた故中村哲医師は、日本の平和憲法の「戦争放棄」の理念が日本を戦争から守り、平和を維持するための強力な枠組みだと信じていました。特に、9条は日本が自衛戦争を含む戦争に参加しないことを確約しており、武力による解決を避けるための重要な法的保障と考えていました。私もそのとおりだと思います。
軍事力に頼ることなく、外交や支援活動を通じて平和を築いていくことが世界の平和を実現する唯一の方法だと思います。もちろん簡単なことではなく、非常に高度な外交手腕が必要となるでしょう。 逆に、武力をちらつかせて相手をだまらせることは頭の悪いやり方です。私たちは子どもたちに、「ナイフを持って学校へ行け」とは教えません。クラスの子たちと仲よくするために、相手を思いやる力やコミュニケーションなどのスキルを教えます。憲法を守ること、特に平和条項を守ることが大事だと、私は子どもたちに教えたいと思います。安保法制は、私たちの憲法の最も大事な「戦争放棄」の理念に違反しており、違憲であると私は主張します。